診療内容
まちの専門家をさがせるWebガイド「マイベストプロ」に掲載されました!片頭痛について
片頭痛は片側に起こるばかりでありません。両側に出現したりすることが実は多く片側の頭の痛みを訴えるのは半数程度です。顔面や頚に疼痛が出現することがあります。片頭痛という言葉から頭の痛みと誤解されている(国語的には正しいですが)方が多くいらっしゃいます。医師でも中には脳神経外科や脳神経内科の専門医の方でも目の奥が痛くなったり顔面が痛くなったりするのを片頭痛の症状として認識してないのも事実です。顔面の痛みを訴える患者さんを三叉神経痛と誤診したり副鼻腔炎と誤診したりすることは多くあります。片頭痛には大きく分けて次のものに分類されます。
- a. 前兆のない片頭痛
- b. 前兆のある片頭痛
- c. 前兆のみのもの
- d. 腹部症状のみのもの
があります。cとdをみて「あれっ?これって頭痛?」と思いますね。当然これは頭痛ではございません。では何故片頭痛の中に分類されているのでしょうか?実は日本語で片頭痛というのは片頭痛症候群のことを意味するのです。症候群というのは根本となる一つの原因から生じる一連の身体症状、精神症状を指す言葉です。つまりある原因により脳血管が拡張して露出した炎症物質が脳血管を取り巻く三叉神経を刺激した結果起こる頭痛やある原因により腹部血管が拡張した結果起こる腹痛やある原因により目の前がキラキラしたりものが見えなくなったりする前兆を起こすことを片頭痛症候群つまり片頭痛と呼んでいるのです。この時の頭痛に片側性のものが多く最初にこの頭痛に名前をつけた人がラテン語でヘミクラニア(ヘミは片側を意味してクラニアが頭痛を意味します)と呼んだわけです。それからヘミクラニアを持つ患者さんの特徴をみると前兆があったり腹痛発作があったりすることでこれらの症候群をヘミクラニアと呼ぶようになり、英語圏ではミグレイン(migraine)と呼ぶようになったわけです。英語圏でも我が国と同様なことが起こり「私はミグレインがあります」といえばすぐに頭痛のことを指すようになりました。ここで頭痛学会の専門医の先生達はミグレインを症候群と定義して、そのうちの頭痛をミグレイン頭痛(migraine headache)と呼ぶようになりました。となると頭痛のない前兆のみの症状もaura (前兆) without headache (頭痛のない)といい、頭痛のない腹痛をabdominal migraine(腹部ミグレイン)と呼ぶことで理解できるようになりました。我が国ではまだそのような説明をする書物がなく、患者さんにはあなたの腹痛発作は片頭痛ですよとか前兆のみの訴えできた患者さんに片頭痛の症状ですと説明し患者さんはきょとんとされるのです。
日本人の850万人が罹患しているとされる片頭痛では現在保険適応のお薬が多種あります。発作を抑えるお薬と発作の再発を予防するお薬の二種類に大きく分類されます。
1.発作を抑えるお薬(頭痛発作時に使います)
- ソマトリプタン(Ⓡイミグラン)錠剤・点鼻薬
- ゾルミトリプタン(Ⓡゾーミッグ)錠剤(口腔内崩壊錠あり)
- エレトリプタン(Ⓡレルパックス)錠剤
- リザトリプタン(Ⓡマクサルト)錠剤(口腔内崩壊錠あり)
- ナラトリプタン(Ⓡアマージ)錠剤
2.発作の再発を予防するお薬(毎日内服します)
- アミトリプチリン塩酸塩(Ⓡトリプタノール)錠剤
- β遮断薬のプロプラノロール(Ⓡインデラル)錠剤
- バルプロ酸(Ⓡセレニカ・Ⓡデパケン)錠剤
- カルシウム拮抗薬のロメジリン(Ⓡミグシス・Ⓡテラナス)錠剤
実際の治療は患者さんの生活習慣や既往や持病や現在内服の薬剤などを詳細に検討して行わなければなりません。非常にデリケートな治療が要求されます。
片頭痛の経過
片頭痛と生活習慣
片頭痛発作を予防する二つの道具があります。それはペンと頭痛手帳です。きょとんとされるような物ですがこれは高血圧治療や減量を目標にした時に用いる道具と同じです。つまり日常生活の記録を紙にするわけです。片頭痛がくる理由がわかるようになるのです。高血圧治療の時に手帳に記録することで減塩や減量や運動への動機づけになり、減量をする時に体重を朝晩測定し手帳に記録してグラフ化することが体重減量につながるという医学的論文もでております。私どもの所では下図のような見開きで二週間分の記録ができる手帳を使用します。これにより生活習慣のなかで片頭痛に最も関連していると思えるa. 日常生活リスム b. 睡眠時間 c. 音・光・湿度・匂いなど環境因子 d. 食事について記録していくことができ頭痛との関連がわかるわけです。
- a. 日常生活は規則正しくするように、できるだけストレスをためないようにするというのは大切なことですがリラックスをしすぎないというのも大切なことです。片頭痛の特徴は月曜日から金曜日までお仕事や学校があるときには頭痛がおこらないで週末にほっとした時に頭痛が出現することです。せっかくリラックスして旅行でもして休もうとしたら頭痛が襲ってきて旅行が台無しになるなどは特徴的なエピソードです。もちろんストレスのかかる平日にも片頭痛は起こりますがリラックスした時にも頭痛が起こることが緊張型頭痛とは異なります。精神分析学の創始者として有名なシグモンドフロイトも毎日曜日ごとに片頭痛発作に襲わられていたようです。平日と週末の生活リズムの失調が頭痛発作を呈していたようです。フロイトは規則正しい生活を実行するようになりこの日曜日頭痛が消失したと言われております。したがって片頭痛発作が頻繁にある時にはメリハリの利かした生活を避けて修行僧のように規則正しい生活をするようにすればよいわけです。
- b. 睡眠についても同様です。短い睡眠時間もストレスになりますが睡眠時間が長いことも片頭痛にとっては誘発因子になります。毎朝規則正しく起床し決まった時間に眠ることを推奨します。良好の睡眠をとるためには睡眠前六時間以内に珈琲や紅茶などカフェインのはいった飲料は避け、睡眠前に軽いストレッチや下記のような頭痛体操などをしてから寝るようにすることが薦められます。
- c. 次に環境因子ですが片頭痛患者さんは環境の強い変化に弱いのです。音刺激やにおい刺激や光刺激や人混みなどはできるだけ避けた方が賢明です。私自身は幼少時の時から片頭痛をもっておりましたが母とデパートに行き化粧品売り場に行くのがとても嫌でした。香水の匂いと人混みのなかを通ると必ず嘔気を覚え時に頭が痛くなっていたのを記憶しております。今思えば典型的な片頭痛の誘発因子です。また強い日差しやタクシーに置いてある防臭剤の匂いなども誘発因子だったと思います(最近は防臭剤も無臭のものが多くなりましたが)。
- d. 最後に食べ物ですがワイン・チーズ・チョコレート・ハム・ソーセージ・ナッツなどが巷で片頭痛の原因物質として挙げられております。これは半分正解ですが半分は嘘です。つまり患者さんによってこれらの食事に感受性がある人がいてその場合に限って頭痛が誘発されるわけです。要するに自分で食べてみで頭痛回数が増えるなと思うようなものを避けてみる程度でよいかと思います。そうでないとこれら全部を避けたらイタリア料理フランス料理は食べられなくなりますね。
ある原因とは?
片頭痛症候群はなにが原因で起こるのでしょうか?これは前兆発作と頭痛発作に分けて原因がそれぞれ解明されつつあります。前兆について最も有力な説は1944年にLeaoによって大脳皮質拡延性抑制(CSD, cortical spreading depression)として報告されました。しかしその報告後CSDは長きにわたり学者のなかで注目されておりませんでした。1990年代になり片頭痛前兆の病態研究において、脳血流の減少が後頭葉から前方に向かって一分間に約2~3 mmのスピードで広がっていくと報告されると同時にCSDとの関連がにわかに注目され始めました。
「のみならず僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?―と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だった。僕はかう云ふ経験を前にも何度か持ち合せてゐた。歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまふ、が、それも長いことではない。暫らくの後には消え失せる代わりに今度は頭痛を感じはじめる。―それはいつも同じことだった。」「歯車」(1927. 4. 7)[遺稿](現代日本文学大系 43 芥川龍之介集) 文豪芥川龍之介によって片頭痛の視覚前兆は如実に表現されていますがこれは著者自身が「前兆のある片頭痛」を持っていたことを示唆すると思います。頭痛発作についての原因は、三叉神経血管説というのが有力です。1984年にMoskowitzらが提唱した説です。脳血管が拡張し、炎症を起こす物質が血管の隙間から露出して神経原性の炎症が起こるというわけです。非常に簡単な説明ですが何故、血管が拡張するのかになると少し複雑です。三叉神経は顔面および硬膜という脳全体を囲む神経に広範囲に分布しており三叉神経由来の非髄性C線維が硬膜の血管に分布してその三叉神経が刺激される結果血管が拡張するということです。卵が先か鶏が先かというような感じにもなるような不思議な説明です。
Moskowitz MA, The neurobiology of vascular head pain. Ann Neurol 1984, 16: 157-168.
「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房 1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
片頭痛の予防
私たちのクリニックでは予防法として四つのことを説明します。1.リラックス 2.睡眠 3.刺激を避ける 4.食事です。片頭痛と生活習慣についての記載項目と重複しますがこの生活習慣を改善することが予防法として最も大切であると考えております。
- 1.リラックスですが精神的ストレスが片頭痛発作を引き起こすのは想像できますが、片頭痛は実はリラックスした時にも出現するのです。つまりメリハリの効いた生活を行うと頭痛が起こりやすくなるのです。休みのない朝の定刻に起床して朝昼夕の食事を毎日同じようにとって定刻に寝る。この生活が最も頭痛発作の回数を減らすと言われております。精神的ストレスがある時は交感神経が緊張してその結果脳血管は収縮します。しかし人間のカラダにはホメオスターシスといって恒常性を維持しようとする機構が常に働いております。ですから収縮した血管はすぐに反動で拡張します。そして血管の隙間から頭痛を引き起こす炎症物質がでるのです。これがストレスのある時の頭痛です。逆に普段ある程度緊張して血管が収縮している状態を保っているときに、土曜日になり「あ〜仕事がやっと終わった。明日はゆっくり温泉にでも行こうかなあ。」と思っていると副交感神経が優位になり脳血管は緩んでしまって拡張します。こればリラックスをしたときの頭痛です。
メリハリのない生活を送らないといけないのかと思うと片頭痛患者になったのを残念に思います。しかし、毎日同じ厳しい生活をする修行僧や成功する受験生を見てみるとそのような生活は何かを成し遂げるには非常に有効であること言えます。これも片頭痛患者さんに偉大な方が多い理由かも知れません。人間は自分にあった生活を営もうとするからです。ただ本当に片頭痛患者さんはメリハリの効いた生活ができなのかというと、できます。つまり発作があまり起こらない状態になっている時には少しメリハリの効いた生活をしてもいいのです。気をあまり重くしないで「Easy going」 で。
- 2.睡眠ですが睡眠不足は当然悪いのですが睡眠過多も悪いのです。先ほどのリラックスをした時に片頭痛が起こるように睡眠時間が多いと副交感神経が優位になり脳血管が緩んでしまって拡張します。休日の時も平日と同様に朝早く起きる習慣が大切です。朝7時に平日起きて休日になると朝10時に起きていた30代の男性は日曜日になると必ず頭痛を呈しておりましたが休日も朝7時に起きるようになって日中に家族でドライブに行ったりし、活動的になりました。その結果片頭痛発作が全く起こらなくなりました。
- 3.刺激を避けることですが強い光や音、騒音や匂いなどは片頭痛の誘発因子といっていいでしょう。強い太陽光線を見ると必ず頭痛が出現するといった20代の女性がいました。夏場に頭痛が来ることが多い様子でした。外にでるときはサングラスをかけるようにすると頭痛の回数は劇的に減りました。強い香水の匂いのするデパートやご婦人がいてその匂いを嗅ぐことにより嘔気を感じて頭痛発作が出現したりします。タクシーの強い香水を嗅いで頭痛発作など。可能であればそういう場所を避けるようにしましょう(最近ではタクシーなど強い香水を避けたり貴婦人も強い香水を控えたりそういう状況が少なくなった感じがします)。しかしあまり神経質にならない方がよいでしょう。都会での暮らしの中騒音を避けて生活することはほとんど不可能です。夏になれば強い太陽光線を避けるのはほとんど不可能になります。神経質になると一日中頭痛予防について考えてしまうことになりかねません。できれば避けましょうという感じで気づいた時に避ける程度でよいかと思います。
- 4.食事についても刺激をさけることと同様です。チョコレート、ピーナツ、ハム、ソーセージ、赤ワインなどが頭痛誘発因子といわれております。気づいた時に避ける程度あるいはその食べ物を食べると必ず頭痛が来るなどの場合のみ避けてみる程度でよいかと思います。そうでないとイタリア料理やフランス料理は食べられなくなります。
ただしこれらの誘因については稀には一つの誘因で頭痛を誘発することもありますがほとんどが誘発因子が複数重なり頭痛を誘発させると考えます。
片頭痛は治るか?
片頭痛は治る病気です。年齢と女性ホルモンの分泌が最も関連があると言われております。したがって齢をとれば誰でも治るのです。男性では50歳位、女性では比較的遅く60歳代位まで片頭痛発作が続くことがありますがその後は出現しにくくなります。また片頭痛予防についての項でも記載しましたが片頭痛発作は一つの誘発因子のみで出現することは少なく複数の誘発因子で出現することが多いのです。したがって誘発因子を減らすことで頭痛回数が減り頭痛の程度が減ることはよくみられます。時には全く頭痛発作がなくなる患者さんもいます。30歳の飲食店で仕事をしていた女性は、連日のように嘔吐をともなう頭痛発作に苦しんでおりましたが五苓散の内服により頭痛発作が驚くほど減少し、さらに飲食店のお仕事を辞めたとたんに頭痛発作はほとんど出現しなくなりました。漢方により体質改善された上にお仕事でのストレスがなくなり、それにより睡眠時間が一定になり生活のリズムが改善されたことが理由だと思います。
小児の片頭痛
各国の学校基盤の有病率は片頭痛が10.4%(本邦の中学生は4.8%)で緊張型頭痛が13.2%です。外来を受診する子供の頭痛の四分の三は片頭痛です。小児の片頭痛も成人の片頭痛と同じ症状ですが両側性に出現しやすく頭痛の持続時間が一時間ほどの短い場合が多い点が異なります。小学校の高学年から中学校の思春期には学校や家庭の心理社会的問題などによって頭痛が慢性化する傾向があります。この場合は片頭痛のみでなく慢性緊張型頭痛が合併し難治性で不登校になる場合があります。また小学生の特徴として車酔いやめまいあるいは朝起きるのがしんどい(起立性調節障害)などが合併することがあります。 我が国では15歳未満の患者さんは基本的には小児科が診るようになっており、私が川崎医科大学附属病院や県立広島病院などで勤務していたころは小児で頭痛と紹介される患者さんは難治性頭痛や二次性頭痛など珍しい頭痛が多かったです。しかし開業して15歳未満でも頭痛の患者さんは診るというスタイルにしたところ普通の片頭痛の子供さんが多くそして比較的短期間で治り軽快する患者さんが多いのを知りました。もちろんそうは言っても一般小児科開業医さんや一般内科開業医さんのところよりは難治性の小児の患者さんが多いと思いますが。 小児の6歳くらいになると自分の頭痛がどのようなものかある程度言葉で表現できますがそれ以下のお子さんでは頭痛が日常生活動作に支障をきたしているのかそうでないのかも判断するような言葉での表現は無理です。そのようなときには私どもは待ち時間に自分の頭痛はどんなものかと自分の似顔絵を頭がどうなっているかスケッチを描いてもらいます。 そうすると緊張型頭痛の場合と片頭痛では頭のまわりに出てくるものが違います。緊張型頭痛では錘様のものを頭に乗せたり鉢巻様のものを巻いたりされるのですが、片頭痛ではトンカチを頭に乗せたりナイフや☆印を頭のまわりに記載するようです。また☆印を眼のまわりに記載されることもありますがこれは閃輝暗点(せんきあんてん)があるという訴えと思います。
学年(年齢) | 主な症状 | 治療 |
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就学前 |
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小学生
低学年
高学年
(初潮/このあたりから大人の偏頭痛) |
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中学生 |
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高校生 |
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バイアグラを飲んで頭痛?
50代の男性の例です。私が県立広島病院で患者さんを診察していたころのことです。10代頃に前兆のない片頭痛を患っていました。ここ数年頭痛はなくなっていたのに急に頭痛が頻発するようになったとのことです。頭痛時には嘔気があり音や光に過敏になり前兆のない片頭痛に一致する所見でした。この年齢で片頭痛が増悪するにはなにか原因があると確信し近医のMRIを持っているクリニックにMRI撮影をお願いして受診させた後日に私のところに再受診した所、「先生、頭痛が治りました。実はクリニックである薬をお願いしたのです。」。何の薬かと思ったらレビトラという第二世代のED治療薬でした。患者さんはレビトラで頭痛が治ったと思われていたみたいですが、実はいままで通信販売でバイアグラを購入されていたようです。バイアグラ・レビトラともに血管を拡張させ陰茎勃起を助けます。しかし同時に副作用として脳血管拡張も来し頭痛を誘発させたのです。バイアグラはレビトラに比べ脳血管拡張の影響が強く頭痛の副作用が多いのです。そのクリニックではトイレにED治療薬があります。というメモ用紙が用意されておりそれを医師に手渡して治療を受けるように心配りされておりました。このようなエピソードもありますので片頭痛患者さんのED治療にはレビトラあるいはシアリスを第一選択にすることが多いです。
バイアグラ | レビトラ | シアリス | |
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服用のタイミング | 性行為1時間前 | 性行為1時間前 | 性行為3時間前 |
作用時間 | 5時間程度 | 10mgは5時間程度 20mgは8時間程度 | 10mgは20~24時間 20mgは30~36時間 |
中枢性感作とは
痛覚過敏やアロディニアが起こっている部位は、炎症部位や組織が障害される範囲を超えて広がることが見られます。この部位では脊髄後角での感覚伝達機構の変化により体性感覚過敏(知覚過敏)が引き起こされます。一般に二次性痛覚過敏や二次性アロディニアといわれます。この機構は中枢性感作ともいい、慢性炎症性疾患ではよくおこり、痛み自体が疾患のように振る舞います。
変容型片頭痛
10から20代に始まる片頭痛であったものが頭痛発作の回数が増えて毎日のように頭痛が起こるようになるのを変容型片頭痛といいます。片頭痛は嘔気や嘔吐そして音や光過敏を伴うのが特徴ですが頭痛回数が多くなるにしたがいそういう要素がなくなり緊張型頭痛のようになり毎日頭痛がおきるのです。またこの変容型片頭痛になる患者さんの35.6%は線維筋痛症といって全身のあちこちが痛くなる関節リウマチ様の疾患に罹患するといわれております。そして不眠症やうつ病が変容型片頭痛の危険因子といわれております。したがって内服治療法は抗うつ薬や睡眠薬などが基本になることが多く当院では神経症に効果がある加味逍遥散(かみしょうようさん)と半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などの漢方を加えて処方することがあります。
女性の頭痛
片頭痛、緊張型頭痛ともに女性が男性よりも多いという報告があります。特に片頭痛は女性が圧倒的に多く男性の3から5倍です。女性に頭痛が多いのは女性ホルモンの影響・遺伝的な要因・ストレスや痛みそのものに対しての反応性が男性と異なるということが言われております。その中で片頭痛と女性ホルモンの関連性は特に強いと言われます。
- 初潮を迎える思春期以降で女性の片頭痛患者さんが増えます。
- 女性の片頭痛の半分以上が生理前や生理中あるいは直後など生理の周期に関連して起こります。
- 多くの女性の片頭痛は妊娠中や閉経後に頭痛の頻度と程度が軽くなります。
これらの事実が女性ホルモンとの関連性を肯定します。女性ホルモンの一つであるエストロゲンの変動が脳内のセロトニンの変動に影響し痛みに過敏になり片頭痛発作が誘発されると考えられております。
片頭痛は遺伝疾患?
母親が片頭痛だと70%の子供が片頭痛になり、父親が片頭痛だと50%の子供が片頭痛になるというデータがあります。また家族性片麻痺性片頭痛1型、2型、CADASIL(キャダシル)、MELAS(メラス)、Osler-Rendu-Weber症候群は片頭痛を生じる単一遺伝子性疾患として知られております。これらの疾患では両親の何れかから一種類の遺伝子のみを授かったときに発症しますが、通常の片頭痛は数種類の遺伝子を両親から分け与えられて生じます。つまり母親が持つ数種類の片頭痛の原因遺伝子と父親が持つ数種類の片頭痛の原因遺伝子が合わさり片頭痛を発症します。そんなわけで母親が片頭痛で子供が片頭痛だと正確にはその原因遺伝子は母親由来の可能性が高いものの父親にも責任遺伝子があるかも知れません。そんなわけですので両親が片頭痛でも子供は片頭痛でないこともあり逆もあります。 前述で芥川龍之介が片頭痛持ちだったといいましたが、片頭痛持ちの有名人は本当に多いです。文学者では、他に五千円札の樋口一葉。芸術家ではパブロ・ピカソがいます。片頭痛による視覚障害で、目や鼻、口が左右非対称の人物が登場する「泣く女」や「ゲルニカ」のような作品を作るようになったと言われております。音楽家ではショパン、モーツアルトなどが片頭痛持ちだったと言われております。 「あなたは頭痛という嫌な遺伝子を持っているのではなく、何か特別な才能の遺伝子を持っていますよ。」と子供さんには説明しています。大人は少し手遅れですので説明しません(人生に遅いという考えは愚かだと思いますので冗談です)。そして次に挙げる片頭痛発作をもつ有名人のお話をしてあげます。
片頭痛発作を持つ有名人
チャールズ・ダーウィン
「種の起原」を発表した進化論の創始者です。イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィン。彼はいつも船酔いと頭痛に悩まされていたそうです。著書の『ビーグル号航海記』にも頭痛で2日間寝込み、塗り薬や豆・葉をこめかみにつけて頭痛治療をしていたとのこと。典型的な片頭痛の発作時間が4時間から76時間と言われますのでまさにその通り。
フロイト
シグムンド・フロイト。エディプスコンプレックスを発見し、夢分析を確立した人物。精神分析の創始者です。毎日曜日に頭痛発作に悩まされていたことでも有名です。頭痛が休みのリラックスしたときに起きるというパターン。片頭痛と診断して矛盾ないようです。
モーツァルト(1756~1791) 頭痛の中から傑作が生まれた!? 作品は不評、経済的にも破綻
モーツアルトは腸チフスや天然痘に罹患したこともあり小柄だったそうです。しかし、あちこちに旅行に出掛けるほど活動的であるところは病弱な印象はありません。モーツアルトは亡くなる一年前くらいから持病の頭痛発作に苛まれたようです。モーツアルトが亡くなる年の1月、ピアノ協奏曲変ロ長調K.595を完成させました。そして、同年7月には激しい頭痛と嘔気に苛まれながらレクイエムの作曲を続け、死の直前四時間前まで譜面に向かい12月5日未明帰らぬ人となりました。東京女子医大の名誉教授の岩田誠先生は神経内科の大家でありながら音楽などにも造詣が深く、ピアノ協奏曲変ロ長調K.595は片頭痛発作の予兆から前兆そして頭痛期そして頭痛が去った後の順番で構成されていると言われております。そのような知識で音楽を聞くと確かになるほどと思います。
フレデリック・ショパン(1810~1849) ポーランドの前期ロマン派音楽を代表する作曲家でありピアニスト。
大変な片頭痛持ちでした。16歳の時に友人に宛てた手紙には、「頭が痛いので、鉢巻をして掛布団の下にいる」と書かれていたそうです。きっと音や光に対する過敏が出現して掛布団の下で防音し遮光していたのでしょう。
米国大統領
米国大統領選ですが、女性初の大統領誕生かと注目されておりますヒラリークリントンさんは我々がマスコミを通じて見ると派手そうに思えますが、大統領としては考え方をはじめ地味な感じの方という見方もあるみたいです。 ところで、米国大統領は今まで男性ばかりでしたが片頭痛持ちが大統領の二割くらいと言われています。これは日本人1億2000万人の850万人が片頭痛というデータがありますが、それ以上の確率で大統領は片頭痛を患っております。さらに、片頭痛持ちは女性と男性の比率でいえば四対一から五対一と通常言われますので、男性ばかりの大統領で一割から二割が片頭痛というのはかなりの高率であるといえます。 片頭痛持ちの方の性格として、何かにのめりこむととことん追求すると言われております。そのような性格が高じて大統領になられたのでしょうか。 「※」は片頭痛持ちを示します。米国大統領の夫人はFirst Ladieといいますがアダムズ、リンカーン、アイゼンハワー、ケネディ夫人も片頭痛持ちでした。
- 第 1代1789年:ワシントン
- 第 2代1797年:※J・アダムズ ※Abigail Adamsアビゲイル・アダムズ
- 第 3代1801年:※ジェファーソン
- 第 4代1809年:マディスン
- 第 5代1817年:モンロー
- 第 6代1825年:J・Q・アダムズ
- 第 7代1829年:ジャクソン
- 第 8代1837年:ヴァン・ビューレン
- 第 9代1841年:W・ハリソン
- 第10代1841年:タイラー
- 第11代1845年:ポーク
- 第12代1849年:テイラー
- 第13代1850年:フィルモア
- 第14代1853年:ピアース
- 第15代1857年:ブキャナン
- 第16代1861年:※リンカーン ※およびその夫人
- 第17代1865年:A・ジョンソン
- 第18代1869年:※グラント
- 第19代1877年:ヘイズ
- 第20代1881年:ガーフィールド
- 第21代1881年:アーサー
- 第22代1885年:クリーブランド
- 第23代1889年:B・ハリソン
- 第24代1893年:クリーブランド
- 第25代1897年:マッキンリー
- 第26代1901年:T・ルーズベルト
- 第27代1909年:タフト
- 第28代1913年:※ウィルソン
- 第29代1921年:ハーディング
- 第30代1923年:クーリッジ
- 第31代1929年:フーヴァー
- 第32代1933年:F・ルーズベルト
- 第33代1945年:※トルーマン
- 第34代1953年:※アイゼンハワー ※およびその夫人
- 第35代1961年:※ケネディ ※およびその夫人
- 第36代1963年:L・ジョンソン
- 第37代1969年:ニクソン
- 第38代1974年:フォード
- 第39代1977年:カーター
- 第40代1981年:レーガン
- 第41代1989年:G・H・W・ブッシュ
- 第42代1993年:クリントン
- 第43代2001年:G・W・ブッシュ
- 第44代2009年:オバマ
- 第45代2017年:トランプ
(Evans RW: Migraine and the presidency. Headache 51:1431-1439, 2011.)
ということで8人が片頭痛でした。8/44=0.18なので二割近い罹患率です。高率です。ヒラリーさんは調べた限りでは片頭痛持ちではなさそうです。ちなみに、日本の総理大臣は1885年12月22日に初代総理大臣伊藤博文が誕生して安倍さんで97代目です。片頭痛の罹患者は不明です。
片頭痛の治療薬
治療薬は大きく分けて頭痛が来たときに使用するお薬と頭痛発作が来ないようにするための予防薬の二種類があります。頭痛が来たときに使用するお薬の代表は消炎鎮痛剤であり、セデスやバファリンやイブなどが相当します。これらのお薬は、片頭痛の機序でいうと血管内外の炎症を抑える作用のあるお薬です。血管の拡張を抑制したりしながら炎症を引き起こす神経ペプチド(CGRP)を抑えていくお薬はトリプタン製剤となり、医師の処方箋が必要になります。消炎鎮痛剤が小児で飲める一方、トリプタン製剤は15歳未満の患者さんには原則使用できないことになっております。また、トリプタン製剤は一剤が500円から1000円ほどします(保険で150円から300円の自己負担)。そして、心筋梗塞や脳梗塞の患者さんには使用禁忌になっております。このように書いてしまうと「トリプタン製剤は強くて高価な副作用もある特別なお薬」という印象を与えますが実は少し違います。消炎鎮痛剤が頭痛を抑えるという主作用以外に副作用が少ないと思われますが、市販薬の多くに消炎鎮痛剤の他、カフェインを含む数種類の内服薬が混入されており、これらを飲み過ぎると腎臓機能や肝臓を痛めることが知られております。そして恐ろしいことに、消炎鎮痛剤を月に半分以上飲んでいると薬剤の使用過多による頭痛になると言われております。薬剤の使用過多による頭痛の症状は片頭痛の症状プラス神経過敏による症状であり、めまい感や耳鳴りやアロディニアという異痛症を体のあちこちに感じるようになります。一方トリプタン製剤はこういった副作用が少ない反面、生理的副作用が内服後30分位で出現して1時間から3時間位続くと言われております。嘔気やめまい感、眠気や体の痛みが出現したり首が締め付けられる感じ、動悸感や胸の圧迫感がでたり全身の脱力感がでることが有名です。これらの副作用は出現しても時間が経てば軽快しますので心配はございませんし、9割以上の患者さんはこれらの副作用はございません。片頭痛の程度が強い方や市販薬では効果が今ひとつの方は、薬剤の使用過多による頭痛に陥る前にトリプタン製剤を試みるべきだと思います。トリプタン製剤を表にまとめました。
製剤名 | スマトリプタン | スマトリプタン | ゾルミトリプタン |
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商品名 | イミグラン錠50 | イミグラン点鼻液20 | ゾーミッグ錠2.5mg ゾーミッグRM錠2.5mg |
用法・用量 |
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最高血中濃度 到達時間 | 約1.8〜2.5時間 | 約1.3時間 | 約1〜4時間 |
消失半減期 | 約2〜2.2時間 | 約1.9時間 | 約2.4〜3時間 |
特徴 | 水溶性で中枢移行・乳汁移行が少ない | 効果発現まで10〜15分と早い | 効果は高いが締め付け感・ふわふわ感が幾分高い |
製剤名 | リザトリプタン | エレトリプタン | ナラトリプタン |
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商品名 | マクサルト錠10mg マクサルトRPD錠10mg | レルパックス錠20mg | アマージ錠2.5mg |
用法・用量 |
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最高血中濃度 到達時間 | 約1〜1.3時間 | 約1〜2.8時間 | 約2.7時間 |
消失半減期 | 約1.6〜2.0時間 | 約3.2〜3.9時間 | 約5〜6時間 |
特徴 | 立ち上がりが早いが半減期も早い | マイルドな効果で締め付け感なども少なめ | 中枢移行性少ない |
私の外来に来られる患者さんの多くは、市販薬で頭痛が治療できなかったり薬剤の使用過多による頭痛になっていたりします。そのため、市販薬や鎮痛薬は中止してトリプタン製剤を主体に治療します。このことから市販薬はダメでトリプタン製剤がよいという誤解を受けることがあります。頭痛の回数が月に二回未満である方や市販薬で十分頭痛を抑えることができる方は安く手に入る市販薬でよいと考えます(もちろん片頭痛と診断された後の話ですが)。また、市販薬でも効果があるのであれば単剤の方がよいと思います。 次に急性期頭痛薬を表にまとめました。
Group1 | Group2 | Group3 | Group4 |
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有効 | ある程度有効 | 経験的に有効 | 有効/副作用に注意 |
スマトリプタン | 制吐薬 | ステロイド点滴静注 | 精神安定剤・麻酔準備薬 |
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(慢性頭痛の診療ガイドライン2013より改変引用) ※NSAID(non-steroid anti-inflammatory drug 非ステロイド性抗炎症薬)でいわゆる鎮痛薬です。
トリプタン製剤はいつ飲むか
片頭痛の特効薬とも言われているトリプタン製剤ですが、いつ飲めばよいかについては患者さんからもよく質問されます。結論から言えば千差万別の対応になります。つまり頭痛が来てすぐに飲む人もいれば頭痛が起こる前に飲む人、頭痛のピークで飲む人がいることになります。頭痛専門医はその人に応じた飲むタイミングを指導します。教科書的には頭痛の予兆期や前兆期では飲まないで、頭痛がきてから早期に内服するように勧められています。それは片頭痛の症状の予兆としての肩こりや首こりを頭痛と勘違いして早期に飲んだりすると頭痛が治らないばかりが酷くなることもあるからです。しかし、人によってはこの肩こりや首こりがすでに頭痛期としての症状でもあり、頭痛が軽快するよいタイミングの時もあります。片頭痛患者さんの多くにストレートネック※を合併していたり緊張型頭痛を合併していたりすること多々見られます。そのような患者さんが軽い頭痛でトリプタン製剤を飲んでいたら、すぐに薬剤使用過多による頭痛の診断基準の一つである月に10日以上のトリプタンの使用を満たしてしまいます。ですから、そのような場合は頭痛がきてもすぐには内服をしないで頭を左右に振ったり、首を前屈したりして頭痛が酷くなるレベルまで待って内服をするように勧めます。首を前屈して頭痛が酷くなるのを頭痛学会ではお辞儀徴候と言っております。月に二回以上の頭痛発作や六日以上の頭痛発作を経験する方は予防薬の適応になります。そして、月に10日以上頭痛発作を経験する方や薬剤の使用過多による頭痛と診断された方もより早期にトリプタン製剤を飲むのでなく、お辞儀徴候などである程度頭痛が酷くなってから飲むようにするのがよいかと思います。飲み過ぎにならないようにトリプタン製剤とはうまくつきあっていかないといけません。 一般的にはより早期に飲めば効果あると思われますが例外もあります。前述したように、片頭痛の予兆期や前兆期にトリプタンを内服すれば一般的にはトリプタン製剤は有効でなくなるとされております。トリプタン製剤は血管収縮作用を持ちますが頭痛の前兆期から頭痛期の初期にかけては血管が収縮すると言われています。つまりトリプタン製剤を早く飲み過ぎると血管がより収縮してしまい、その反動でより血管が拡張して頭痛が軽快しないばかりか増悪してしまうこともあるのです。では、お辞儀徴候ですべての人が内服すべきかといえばお辞儀徴候ではすでにタイミングが遅い人もいます。 そのような人は眼球が痛む時や肩こりや首凝りを感じたりした時、あるいは前兆期に内服すると効果がでることもあります。ですからトリプタンを飲むタイミングは千差万別になるのです。逆に、月に二回未満の頭痛発作や六日未満の頭痛発作を経験する方ではより早期に飲むこともチャレンジしてみてもよいかと思います。例えば、年に一から二回くらいだけ酷い片頭痛発作が試験などの行事に決まってくる方は、試験の日の朝にトリプタン製剤を内服してから(頭痛発症前に)試験に臨むなどもありかもしれません。
※ストレートネック:頸を突き出す姿勢など姿勢が悪いことが原因で頸椎の自然なしなりがなくなり、真っ直ぐ(ストレート)の棒の様に首(ネック)が見えること。
片頭痛の予防薬
まず予防療法の適応ですが、片頭痛発作の頻度と急性期治療の効果で判断することになります。頻度から言えば、月に1回以下であれば予防療法の適応はなく月に2回以上で考慮すべきと考え、月に10回以上片頭痛発作があれば予防薬は投与すべきと考えられます。しかし、急性期治療薬の効果から言えば適切に急性期治療薬を使用しても日常生活に支障をきたす片頭痛発作が起こるなら頻度が少なくても予防薬を考慮すべきです。また、患者さんによっては急性期治療薬が副作用や禁忌のため使用できない場合は予防療をお勧めします。さらに、非常にまれではありますが片頭痛発作で永続的な神経障害を残す恐れのある片麻痺性片頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛や遷延性前兆を伴う片頭痛などでも予防薬投与が勧められます。 代表的な予防薬は抗てんかん薬や血管拡張作用のある薬や抗うつ薬になりますが以下表に示します。
Group1 | Group2 | Group3 | Group4 | Group5 |
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有効 | ある程度有効 | 経験的に有効 | 有効/副作用に注意 | 無効 |
抗てんかん薬 | 抗てんかん薬 | 抗うつ薬 | その他 | 抗てんかん薬 |
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- 抗てんかん薬は、神経の異常興奮を抑制するお薬であり片頭痛で異常興奮しやすい三叉神経を抑制する働きがあります。片頭痛の機序で最初に脳幹の三叉神経核が異常興奮すると言われているのでまさに理にかなったお薬です。ただし、バルプロ酸はてんかん時の使用量を使用することはまずありませんが800mg位を毎日内服して妊娠をすると胎児のIQが低くなるというデータがでており、米国では妊娠の可能性のある女性には禁忌となっており日本でも慎重投与となっております。他にトピナという抗てんかん薬は片頭痛の場合、日本では保険適応になっておりません。副作用として尿管結石や腎結石があり内服中の方は日に2〜3リットルの水分摂取が勧められております。
- β遮断薬やCa拮抗薬やARB/ACE阻害薬は高血圧を治療する薬でもあり血管を拡張させます。
サプリメント・代替療法・漢方薬・非薬物療法
リボフラビン
リボフラビンはミトコンドリアにおけるエネルギー酸性の上で大切なビタミンでありビタミンB2と呼ばれております。前述した表にもビタミンB2として記載がありますが、GroupBに属しておりある程度有効となっております。これはビタミンB2がサプリメントであり有害事象が少ないことより強く勧められているからです。海外でのプラセボを対象とした試験では非盲検試験(薬が偽薬であるか実薬か被検者にわかる)では片頭痛に対して有効性を認めましたが、二重盲検プラセボ対象試験では有効性を認めた試験は数少ないとされております。現代社会においてビタミンB2が欠乏することは多くありませんが、偏食などによる摂取不足や代謝障害や抗生物質などによるビタミンB2の利用不全などで口角炎や口唇の発赤、白内障、脂漏性皮膚炎、脱毛、舌炎、貧血や場合によっては高次脳機能の障害(知的障害)を呈することがあります。我が国ではサプリメントとして市販されており、また口内炎などの症状に対してビタミンB2の錠剤や静脈注射ができるようになっております。片頭痛患者さんは考慮してもよいサプリメントと思います。
葉酸
葉酸はビタミンB9あるいはビタミンMともよばれる水溶性ビタミンの一つです。妊娠や授乳時には葉酸の需要が増加しますし、薬剤中毒やアルコール過飲などでは摂取不足になり葉酸欠乏になります。葉酸欠乏になるとアミノ酸やDNA合成ができなくなり貧血や免疫機能の低下や神経障害などの症状をきたします。一方葉酸を長期内服すると発癌率が増加するという危険性が指摘されております。 片頭痛においては試験自体が少ないことがある一方、抗てんかん薬内服時の胎児の催奇形性の発現を減らしたりするので、妊娠の可能性のある若い女性などには短期間の投与であれば考慮してもよい(長期では発癌性が心配)と考えます。葉酸はサプリメントで市販されていますが医薬品として葉酸欠乏症に保険適応となっております。
マグネシウム
マグネシウムはナッツ類(アーモンドやカシューナッツなど)や大豆などの豆類や赤肉や緑色野菜や魚介類に多く含まれております。欠乏すると脳血管痙攣や疼痛関連因子が放出されるのを促したり、神経系の易興奮性などを呈したりします。マグネシウムは片頭痛治療において有効であるというデータは少ないものの副作用が極めて稀(腎臓が悪い方は禁忌)ですので前述の表でも使用が薦められています。マグネシウムはサプリメントでも市販され医薬品では胃炎や便秘薬として保険適応になっております。
フューバーフュー(ナツシロギク)
キク科ヨモギギク属の植物で古くから薬用ハーブとして使用されております。頭痛学会でもあまり取り上げられることがなく私自身あまりこのハーブについては無関心でしたが、ある日患者さんが「先生、片頭痛が治りました。妻が買ってくれたフューバーフューのお蔭です。」と言われました。早速文献などで調べてみると確かに有効であるという大規模臨牀試験もありました。一方それを否定する試験もあり、総合的評価(メタ解析)では有効性は証明されていません。その理由の一つでは、ハーブのどの部分を用いるか抽出方法により有効成分にばらつきがあったためと思われます。後述する西洋フキが肝毒性や発癌性があることがわかったように本ハーブの安全性については懸念があります。というのは継続投与による人へ与える影響についての検討がほとんどなされてないからです。現時点では子宮収縮作用があるため妊婦には禁忌であり、授乳している女性や2歳以下の小児には禁忌とされております。
西洋フキ
キク科フキ属の植物で、片頭痛予防や慢性咳嗽や喘息や胃潰瘍予防など古くから薬用ハーブとして用いられておりました。私自身かつて片頭痛で悩んでいましたが、頭痛学会で何年か前に西洋フキの試供品があり内服してみたことがありました。片頭痛に対しての予防効果をみる試験でも有効性が示されておりました。西洋フキは強力な血管拡張作用と抗炎症作用を持っていて予防薬としては期待されておりました。ところが後日、肝毒性や発がん性を有することがわかり英国では医薬品庁が製品の自主回収などの措置をはじめ、我が国でも2012年2月8日厚生労働省から消費者に対し控えるように注意喚起し、事業者には販売中止するように指導しました。
コーヒー
コーヒーにはカフェインが含まれており血管収縮作用があります。普段多く飲まれている人は少なめにすると片頭痛の発症の程度や頻度が軽減されることがあります。また逆にあまり飲まない方では片頭痛発作時に飲むと頭痛が軽減されることが知られております。カフェインによる血管収縮作用によると思います。また片頭痛でないのですが睡眠中にだけ出現するという睡眠時頭痛というのがあり、頭痛発症時にコーヒーを飲むと劇的に改善されることがあります。
最新の片頭痛予防薬(2021年リリース)
片頭痛の原因についてCGRPという物質について前述しましたが、CGRP抗体予防療法というのがあります。抗体というは自分の体にない異物を排除するための蛋白で、例えばバイ菌が体の中に入ってきた時に働き、この機能のことを免疫といいます。医療の現場では献血などから作られた血液製剤など重症感染の時に使用するような免疫グロブリンという抗体や関節リウマチの患者さんに使用するリウマチ疾患の原因となる物質に対する抗体など様々な抗体が使用されております。近年頭痛の原因物質の一つと言われるCGRPという蛋白に対する抗体やその蛋白が作用する受容体(受け皿)に対する抗体を作成し、それを片頭痛治療に使用しています。つまりこのCGRPが作用する受容体も解明されて、Gタンパク質共役型受容体calcitonin receptor-like receptor(CLR)と修飾蛋白であるreceptor activity-modifying protein(RAMP)、およびエフェクターとして働くreceptor component protein(RCP)の三つのコンポーネントより形成されていることまでわかりました。 現在、抗CGRP抗体として日本イーライリリー株式会社・第一三共株式会社よりガルカネツマブ(galcanezumab)がエムガルティー®として、大塚製薬からフレマネズマブ(fremanezumab)が、抗CGRP抗体として、アムジェン株式会社よりエレヌマブ(erenumab)がアイモビーグ®として発売されております。
イーライ・リリー社のLY2951742とアルダー社のALD403とテバ社のTEV-48125
治験時の名称 LY2951742はガルカネツマブ、テバ社のTEV-48125はフレマネズマブとアムゲン社のAMG334はエレヌマブと名称されております。 これらの抗体製剤を使用することにより、50%頭痛の質が軽減したのがプラセボ(偽薬を使用した群)では33%の人しかいないのに対して、抗体製剤を投与された群では61%もの方がいるようです。また、完全に頭痛が治まった人はプラセボでは存在しないのに抗体製剤群では16%もいたのです。
※これらのデータはアルダー社のALD403(epinezumab)の治験時のものです。
片頭痛とCGRP
CGRPは片頭痛の直接の原因とされるタンパク質であり、片頭痛が始まるときは、三叉神経からCGRPが脳の表面の膜に向かって放出されます。この膜は炎症と血管拡張を引き起こし、結果として脳が痛み、嘔気、眠気を感じるとされています。
悪の3連鎖を断ち切る
片頭痛の治療は、CGRP関連の3段階の悪を防ぐことを目指しています。 ①CGRPの放出を防ぐ薬としてはトリプタンがあります。これは、三叉神経からCGRPが放出されるのを止める薬です。非常に画期的で、片頭痛の特効薬です。しかし、まさにCGRPが放出されるその時にしか効かないのが、難点でした。 ②CGRP自体を無力化する薬としてはエムガルティやアジョビがあります。これらの薬は、放出されたCGRPにくっついて、役立たずにします。1~3か月の間、体内でCGRPを24時間警戒し続け、CGRPを発見次第すぐにやっつけてくれるので、どれだけCGRPが放出されても、頭痛にならない、そういう薬です。 ③CGRPの受容体をブロックする薬としてはアイモビーグがあります。
最も強力な薬は?
前述した理由からは、アイモビーグが最も強力ですがCGRP以外のたんぱく質も同様の働きがあったりCGRPはCGRP受容体以外の受容体にも結合するとされてます。 そのため臨床試験の結果ではエムガルティやアジョビとの有意差は明らかでないのが現状です。
新薬はなぜ注射なのか
新薬は高分子であり、消化されないため注射が選択されています。これらの製剤を内服薬にするには、胃酸や消化酵素に耐え、腸で吸収され、肝臓で代謝されるという試練を経ても、薬が無事でいる必要があり、開発はさらに難しくなります。
新薬はなぜ高価なのか
大量生産が困難であり、生物学的に合成されるため高価となります。一般的な化学合成の薬品とは異なり、生体内で合成されるため、製造プロセスが複雑でコストがかかります。
新薬に盲点はないのか
CGRPは脳以外にも様々な役割を果たしている可能性がありますが、薬の副作用は比較的少ないとされています。また、薬の効果が持続することや依存性が低いことも報告されています。これらの薬剤は、中和抗体の出現率が低く、中和抗体が出現しても作用が落ちることはまれです。